「ロードって何かと結婚の話を持ち出すよな」
「あーあれはなぁ」
ロードが何やら嬉しそうに笑う。
「あいつが俺の嫁さんになりたいって言ったんだよ」

「…え、ティリエが?」
「ん?思ったより驚かないんだな」
「最初に会った時ロードが、婚約者ですって言ってただろ?ティリエに怒鳴られてたけど」
「そうだったっけ。いやぁ、いつものことすぎて覚えてないな」
どこまでもいい加減な奴だな。
婚約者って言って忘れるんだぜ?ロードとだけは結婚したくないな。

「10年ぐらい前だったかな。俺は都市に出る前だから13歳か。7歳ぐらいだったティリエが、『私ロードのお嫁さんになる』って言い張ってたんだぜ?あの頃は可愛かったなぁっ…」

途中からロードが笑いをこらえて言葉を詰まらせる。お嫁さんになる、か。そう言う純粋な美少女を想像するのは簡単だったが、それをティリエとイコールで結ぶには俺は経験値が足りな過ぎた。

「あのティリエにそこまで言わすなんて、よっぽど仲良かったんだな」
「まあな。カリシエって知ってるか?」
「ティリエの兄貴の?」
「そうだ。あいつと俺は同期でな、よく二人でガルグのじいさんに剣を習ってた。俺はさぼって大体ティリエと遊んでたけどな。反対にカリシエはくそ真面目だったから、確かサボったのはティリエの誕生日かなんかの時だけだったぜ。あとはひたすら稽古稽古稽古。あんまり構ってもらえなかったもんだから、ティリエは俺に懐いてた」

なるほど。両親はティリエが生まれてすぐ病気で他界したそうだから、きっと寂しかったんだろうな。兄貴もなかなか冷酷だ。馬鹿かもしれないけど、隣にいるのが凄くいい奴に見える。

「でもほら、あれであいつも娘だしな?兄弟そろって頭もいいから、そのうちに俺が馬鹿で兄貴が正解だって気付いて、恥ずかしさもあって離れてったんじゃないか?」
「最高に気の毒な話だな」
「同情してくれるのかーいいやつだなお前」
再び捕獲されそうになったのを俺はひょいとかわした。脱出が一苦労だからな。

そして俺が思うに、ティリエは恥ずかしいというよりは、人生最大の汚点を抹消したいってだけじゃないのか。いやまぁ、会って数日の俺が幼なじみに言うのもなんだから、口には出さないけど。

「ほらほら、さっさと終わらせんと日が暮れるぞ。ここらはクルーガの縄張りらしいしな」
「うわっ、早く言えよそういうことは!」
「まさか丸腰で来たのか?」
「仕方ないだろ、ひびが入ったんだから。火打石ならあるけど」
「ラエブは火打石じゃ逃げないぞ?」
「脅すなよ。その時はロードを盾に逃げるさ」


口数を減らしつつ、俺達は黙々と作業を進めた。午前中の畑いじりよりこっちの方がいいな。しゃがみっぱなしの姿勢はどうも腰にくるんだ。それに修理されていくのは目に見えるからやる気も出る。

なんとか日が暮れる前に修理を終えて、俺達は足早に村に戻った。やれやれ、招かざる客に遭わなくてよかった。


「これからどうするんだ、アルツ」
「ガルグのところに寄っていく。なんか渡したいものがあるらしいんだ」
ふうん、とロードが腕を組む。
「俺も行っていいか?打ち直しが終わったってことだろ」
「本当に剣が好きなんだな」
「まぁな。いやでも、俺の恋人はハーベストだけどな」
俺は渇いた笑いを返しておいた。余計なお世話だろうが同情するよ、ハーベスト。